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インタビュー

左脳と右脳の融合が生み出す美の価値

山田博子氏

(やまだひろこ)

1972年に桑沢デザイン研究所を卒業。同年、小林コーセー株式会社(現・株式会社コーセー)に入社。マーケティング部デザイン室にてデザイナー・アートディレクターを経て、1986年に商品開発部・事業開発部や商品デザイン部、事業開発部などにたずさわる。一般流通ルート商品の開発・販売を事業とするコスメポート株式会社(現・コーセーコスメポート株式会社)の設立にたずさわり、以来、現在までプロダクトプランニングディレクター・クリエイティブディレクターとして、商品企画、デザイン開発、設計の商品統括業務推進を担当。日本パッケージデザイン協会会員、学校法人HAL特別講師(名古屋・大阪)。国内外のパッケージデザイン賞を多数受賞。

----- 経済環境の悪化からデフレスパイラルなどが懸念されており、国内のプロダクトマーケットは活力を失っています。「病は"気"から」とも言いますが、「病気」という文字の半分は"気"が占めています。ならば、「景気」にも同様なことが言えるはずで、「景気は"気"から」とも言えなくはありません。むしろ、国内のプロダクトマーケットを支える需要構造が、少子高齢化を背景とした人口の減少やシングルス世帯の増加など、世界に先駆け大きく変化しつつあります。それだけに、新しい需要の創出に挑む"活力"が今ほど求められる時はないと思います。

山田) 私もそのことを実感しており、その活力を生み出すことがデザインの最大の役割だと思っています。誰もがまだ鮮明に記憶しているあの米国同時多発テロ事件「9・11」での、デザイナーたちの或るエピソードを聞いたことがあります。それは、それまで準備してきたコレクションの衣装内容を、「9・11」を契機として急きょガラリと一新したというものです。それは、悲しみに沈み深く傷ついた心に光と希望を送りたいという、デザイナーたちの思いの発露であったようです。
 私はこの1つのエピソードに、デザイナーとしての役割が余すところなく現われていると思っています。基本としては、CMF(カラー・マテリアル・フィニッシ)といった"モノのデザイン"も大切なことなのですが、常に変化して止まない社会のニーズといったものを鋭敏に感じとって、いかに素早く応えていくのかということの方が大切だと考えています。幸いにも、コーセーの企業メッセージでもある「英知と感性を融合し、独自の美しい価値と文化を創造する」を、創業者の故・小林孝三郎氏が残しています。まさに、右脳と左脳の融合ということです。いうまでもなく、「design(デザイン)」の語源は、「計画を記号に表す」という意味のラテン語の「designare」にあります。企業の軸は"中身製品"と"パッケージ"と"CM"にあり、こうした創業者の残された理念をいかにカタチにして、社会貢献していくのかがデザイナーの役割だと認識しています。その意味で、デザインは社会を変える力を持っていると思っています。幸いにも、私は小林孝三郎氏と身近に接する機会があったので、入社以来今日まで変わらない思いで仕事することができました。

----- 山田さんがよく「私は命をかけています」といわれる所以が、少し分かったような気がします。山田さんは1988年に、そのコーセーを離れて現在のコーセーコスメポートの創業から今日までかかわってきたわけですが、その原動力はまさにコーセー創業者のDNAの継承にあると言って過言ではないでしょうね。そのコーセー時代に手掛けた印象に残る作品は多いと思いますが、1つ挙げるとすると。

山田) 誤解を恐れずにいえば、これまでの貴重な経験は誰にでもできるものではないと思っています。その意味でいえば、ご指摘のDNAを次に残せるのは、コーセーコスメポートに創業当初からいた私しかいないと強い責任を感じています。コーセーコスメポートでは、その事業内容から、先に紹介した「英知と感性を融合し、独自の美しい価値と文化を創造する」を受けるかたちで、「美しさをより身近に」を企業メッセージとしています。確かに、すべてが「命がけ」で生み出してきたプロダクトですので、「どれが一番」とは言えませんが、1970年代にオイルショックの影響でやはり不況下で苦しんだ時期があります。
 当時はまだ高度経済成長の途上で、インフレを引き起こしていました。苦境下にある家庭生活に希望や明るさ生み出したいと、不況を契機に物欲から心のあり方を問うモノづくりを考えていました。その考えには社内から反対もだいぶありましたが、活力をイメージさせる男性のシンボルをデザインしたパッケージで「ESPRIQUE(エスプリーク)」を発売しました。また女性の社会進出が始まった頃であり、"誰をも美人にする"というコンセプトでアソートカラーのメイクパレット「BE」を発売しました。当時は白モノのデザインが主流でしたが、あえて「日本の墨」を基調としたデザインとしました。
 とはいえ、黒色の流行はすでにマーケットに現われ始めていたことであり、それを先取りしてカタチとしたものです。私は、これまで小林孝三郎氏の残した「正しきことに従う心」という言葉を座右の銘としてきました。"正しさ"という定義は難しいとは思いますが、そのことによって見えてくるものがあります。逆に、それを外してしまえば、変化しゆくプロダクトマーケットのニーズを見誤り、モノゴトの本質を見失ってしまうことになります。

----- 「正しきことに従う心」という言葉にも通じることだと思いますが、山田さんは"感性価値による経験価値の創造"ということを言われていますね。"正しさ"を定義することよりも、デザイン制作におけるそれを感じる取る感性(sense)の大切さと強調されているのだと思います。それでは、経験価値とはどんなことでしょう。

山田) 簡単に言えば、プロダクトの価値がモノからコトへ移っていくということです。現在は3R(Reduce、Reuse、Recycle)時代とも言われ、プロダクト設計で環境配慮を無視することはできません。その点で、"経験価値の創造"とは「購入してから捨てるまで、パッケージを無駄なく使い切らせたい」ということになります。たとえば、コーセーコスメポートのメイク「コスマジック(Cosmagic)」のパッケージには、いかに無駄なく使い切ってもらうかを考え尽くし、やれるところはやるとの考えから様々な工夫をしています。台紙が切り抜きになっていることや、ブリスターパックの一部がメイクでの補助具として使用できるなどです。おまけ的な考え方ですかね。結構、楽しんでいただき、好評をいただいています。
 もちろん、こうした新しい挑戦にはリスクがあるのは当然ですし、必ず抵抗があることはいうまでもありません。しかしながら、この挑戦によってしか新しい価値や喜びは生まれません。そのために、必要であれば社会をも変えていけるのがデザインだと自負しています。

山田氏自身がネーミングしたという「コスマジック」は、今までにない新しいパッケージ設計の試みが随所に見られる。