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インタビュー

「認識する段階」から「行動する段階」へシフト

宝坂健児

プロフィール◎ほうさかけんじ
ジェイパックワールド株式会社
代表取締役社長

----- 入梅から暑い日が続いていますが、"ゲリラ豪雨"では"らしさ"を感じることはできませんね。景気状況もよく似ており、これまで経験してきた不況感とはやはり異なります。ようやく小康を得た感もありますが、まだ予断を許さない状況である。殊に今年の(2010年)前半、苦境に陥った企業が周囲に多く目立ちました。
 ただ6月辺りから、その苦境を越えたような実感を得ています。もちろん、景気状況が大きく変わり始めたというのではありません。むしろ景気状況に依らず、それぞれが苦境をバネに独力で次のステージへと進み始めたというものです。何事であっても、まず心が動くことから始まります。私も6月辺りからお会いする人のタイプが、これまでと変わってきています。

宝坂) 全く同感です。私の生業でもあり、本誌創刊(2009年4月号)からのこの1年数カ月間様々な人とお会いし、特にリーマンショック以降のプロダクトマーケットの変化について対話を重ねてきました。もちろんプロダクトマーケットだけに限ったことではありませんが、そこで感じたことは、まずリーマンショック以前と以後では問題意識がハッキリと異なるということです。そして多くの人が、経済次元を超えた底深い"変化"といったものを感じ取っている。本誌でも、これまで「パラダイムシフト」との言葉を多用してきましたが、それだけでは何かこの変化を捉えきれない気がしています。また、この捉えきれないというところが、先ゆきの不透明感や底知れぬ不安感といったものを生み出すのでしょう。吉川英治氏の小説「宮本武蔵」にはこんな言葉が書かれています。
 「波にまかせて、泳ぎ上手に、雑魚は歌い雑魚は踊る。けれど、誰か知ろう、百尺下の水の心を。水の深さを」と。確かに波のように表層で起る現象だけにとられていては、水底の大事な変化を見逃してしまいかねません。「まず心が動く」とのご指摘は、まさにそのことですね。また図らずも、「次のステージへと進み始めた」とのお話をいただき、私はいよいよ「認識する段階」から「行動する段階」へとシフトするタイミングに入ったと感じています。
 本誌でも、誌面だけではなくWebの活用やセミナー開催など多面的に、新しい挑戦をスタートしたところです。

----- 非常に大事な視点だと思います。私は、その"行動"の原動力となるのは"認識"というよりも、"主観的確信"と言った方がよいと思っています。吉川英治氏の言う「百尺下の水の心」を知ることに似て、けっして目で見て図れるものではなく、感じ取るものだからです。ここに岡倉天心氏が「東洋の理想」(講談社学術文庫)に紹介した興味深い話があります。
 「インドや中国の聖賢たちに対する尊崇の念の厚いことで知られていたある著名な学者が、反対論者にこう聞かれた、『貴殿は―これらの大宗師たちに対してかく絶大なる敬愛の念を抱いておられる貴殿は―もしかりに仏陀を総帥とし、孔子をその副将として、いずこかの軍隊がわが日本に侵入してきたとすれば、いかがなされるであろうか』と。彼は躊躇するところなく答えた、『釈迦牟尼の首を打ち落とし、孔子の肉を塩漬けにすべし』と」

宝坂) 非常におもしろいお話です。"認識"と"行動"との関係からいえば、むしろ"行動"のための"認識"であるといえるでしょうか。また感じたままに言えば、変化というのは「起きる」のではなく、その変化の意志を感じて、自らの行動で「起こす」ということかもしれませんね。確かに釈迦も"歩く人"であり、"行動の人"であったようで、王舎城には120回、毘舎離には50回、舎衛城には900回も訪問したと言われています。
 最近、よく思い出すことがあります。私は大学時代、ラグビー部に所属していましたが、近しい友人たちと「人生航路研究会」というサークルを結成しました。ご承知のように、当時は海運不況の余波が残っており、卒業生の極わずかしか海運会社へ就職できない状況でした。そうした状況から、商船大学(現・東京海洋大学)に学ぶ意味を再確認したいと考えたのです。
 つまり海運業に限らずどんな職業へ進んでも、人生航路の航海士(captain)であることが商船大学に学んだ強みであるということです。実は本誌の創刊も、その延長線上にあるといっても過言ではありません。その「人生航路研究会」発足時に「何を教材にするか」で、先輩に相談したところ即座に勧められたのが鎌倉時代に日蓮の著した「立正安国論」でした。時の執権をこの書で諌めたといいますから、日蓮には宗教家らしからぬところがあったのかもしれません。
 専門家ではないので、10問9答の対話形式とはいえ「立正安国論」を理解するのはだいぶ苦労しました。ただ、すっきりとした理論展開と対話の小気味好さ、そこに込められた熱誠は一宗一派に偏するものではないと感じました。よく思い出すのは、その冒頭に描かれた客の問いに対する主人の答えです。旅客来て嘆いて言うには「近年より近日に至るまで天変地夭飢饉疫癘遍く天下に満ち広く地上に迸る、牛馬巷に斃れ骸骨路に充てり、死を招くの輩既に大半に超え、悲まざるの族敢て一人も無し」と、そして「是れ何なる禍に依り是れ何なる誤りに由るや」との問いを発します。
 それに主人が「独り此の事を愁いて胸臆に憤ぴす客来つて共に嘆く屡談話を致さん」を応じ、「世皆正に背き人悉く悪に帰す」と答えるものです。さて、この「正」をどういうふうに考えるのか。「正しい」ということを定義するのは難しいですね。

----- 専門家でなくても、比較的分かりやすい文章だと思います。「天変地夭飢饉疫癘遍く天下に満ち広く地上に迸る」の下りなどは、何だか身に迫って感じる人も多いのではないでしょうか。「正しい」ということは確かに、ビジネスにはなじみ難い言葉かもしれませんね。ルイーザ・メイ・オルコット氏(Louisa May Alcott)の作品の中には「明るく朗らかにして自分の仕事をはげんでいれば、人からは愛され、友だちは集まり、いつの間にか幸福が訪れるものです。正しい人間になろうと努力しているうちに、ほかの人も正しい道に導くようになるのです」という一節があります。

宝坂) 「正しい」をどう定義するかというよりも、正しさを求めて行動、挑戦を続けていくことが大事だということですね。冒頭に、「お会いする人のタイプが変わってきた」ということを話されましたが、私もそのようなことを感じています。タイプ分けをするのは難しいのですが、誤解を恐れず端的にいえばこの「正しい」ということを求めて行動、挑戦している人たちです。最後に、マックス・ウェーバー氏(Max Weber)の言葉を紹介したいと思います。
 「自分の信念や理想にこだわって結果に責任を持たないのも、結果さえよければ、信念や理想などいらない、と考えるのも真の政治家ではない。真の政治家とは、いかに困難な状況であろうと、『にもかかわらず』と言い切れる信念を持ち、現実に挑んでいく人間のことである」。もちろん、政治家だけに通じる言葉ではありませんね。