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インタビュー

人としての信頼がグローバル化のベース

杉浦 登氏

一つ一つの積み重ねがゴールに至る道です。

【プロフィール】すぎうら のぼる
1971年、東京大学経済学部経済学科卒。新日本製鐵入社。輸出部輸出企画調整室長、営業総括部次長、中国総代表北京事務所長を歴任。鈴木金属工業へ移籍。2006年6月、取締役社長。現在63歳。

【会社概要】鈴木金属工業株式会社
[設立]1938年5月1日
[売上高]349億66万円(平成21年度)
[従業員数]1,235名(平成22年3月31日)
[主要販売品目]ピアノ・硬鋼線、オイルテンパー線、ステンレス線、PC鋼線およびPC鋼より線、極細線、異形線、チタン線、めっき線など。
[沿革]1964年主力製品となるSi-Crオイルテンパー線を他社に先駆けて商品化。2009年ハルディクスAB社(スウェーデン)からガルピッタンを買収。「スズキ・ガルピッタンAB」として、弁バネ製造販売4極体制を実現

----- あのリーマンショックから2年を経ましたが、中国をはじめとした東アジアの国々とは対照的に、国内ではいまだ経済危機を脱していません。政府の対応なども遅れており、目下の急速な円高などの影響も心配です。何よりも先ゆきの見えない状況であることから、2010年4~6月期では減少幅が縮小したとはいえ、国内での設備投資はやはり減少傾向にあるといえます。
 人口構造の変化などにともなった、内需の新しいニーズに応えうる設備の更新や新規構築などが求められているにもかかわらず、なかなか遅々として進んでいないのが現状です。こうした内需の閉塞感をいかに打開するのか。その1つとして、グローバル化の推進があると思います。貴社は2009年に、業界では世界トップとなるスウェーデンのガルピッタン(Garphyttan)社を買収され、一気にグローバル化を進めましたね。
 本誌主催のセミナー「ジェイクルーズ」でも、杉浦氏は「中小企業といえどもグローバル化が必要」と強く訴えられており、業界は異なるとはいっても、包装産業にも通底する課題であり、買収の実行や統合プロセスといった経験談は非常に参考となりました。

杉浦) すべてが初めての経験であり、「ゴールが見えていた」といえば"ウソ"になります。1つ1つステップを、ただ確実に成し遂げていったというのが実感です。2008年9月12日にスウェーデンのインベストメントバンカーの電話を受けてから、10月17日に第1次ビッド(Bid=売値)を提示し、11月4~13日デューディリジェンス(DD=対象企業の調査活動)、12月25日には契約調印と、わずか3カ月の短期決戦となりました。
 すでにお分かりのように、リーマンショック以降であったこともあり、様々なリスクに対して冷静な評価と果敢な決断が求められました。多分に運もあったかと思いますが、買収から統合に至るまでプロセスは非常に順調であったと思います。ガルピッタン買収以前にも、グローバル化へ向けた海外企業との提携といった話はありましたが、なかなか実現に至らなかったことも事実です。
 これは産業分野を越えて共有する課題だと思いますが、人口の減少や少子高齢化が急速に進む国内マーケットでは、将来的な需要規模の縮小は否めません。当社も、包装産業に似て需要先の裾野が非常に広く、用途は多岐にわたっています。なかでも、主な製品にはエンジン用弁バネ材などがあり、これは自動車需要に依存しています。いうまでもなく自動車は、国内産業をリードするかたちでグローバル化を積極的に進めてきています。しかしながら、2007年をピークに国内外生産ともに減少へと転じていることも事実です。
 こうした危機感とともに、需要家の海外進出にともなう現地調達化の要請や、グローバルマーケットでの海外メーカーとの熾烈な競合など、切実な課題を抱えていたことも確かです。それだけに、中小企業としてはグローバル化への思いが一層強かったのだと思います。とはいえ、中小企業が抱える資金力やグローバル人材の不足といった課題を、いかに乗り越えるかがポイントです。その点では"多分に運もあったか"と思います。

----- 「運も実力のうち」とも言われますが、貴社のグローバル化への真摯な取り組みと努力が引き寄せたものではないでしょうか。さて、堺屋太一氏が1997~1998年に連載された小説「平成三十年」を読んだことがありますが、堺屋氏は同書を"近未来予測小説"と称していました。その予測の1つとして、「1業種2社体制」なるものを描いていました。賛否はおくものとして、まさにグローバルマーケットでの競争力にウエイトをおいたものです。
 貴社もグローバル化へ向けた1つのステップとして、2007年に住電スチールワイヤーと合弁会社を設立していますね。

杉浦) 需要が減少する中での国内での競合激化は、お互いの体力を消耗するだけで益がありません。確かに堺屋氏がご指摘のような、グローバル企業の育成を志向した何らかの方向性を、政府が示す必要もあるのではないかと思います。これまで自動車産業に象徴されるように、大企業のグローバル化によって国内経済が支えられてきたことは間違いありませんが、これからの経済成長のカギを握るのは中小企業のグローバル化にあると思っています。それだけに、人材のさらなる流動化やリスクマネーのサポートといった点で、国としての体制づくりを期待したい。
 さて先にも触れましたが、買収のきっかけはインベストメントバンカーからの1本の電話です。ハルデックスグループの事業再編による売却意向で、業界では世界トップ企業であるだけに驚きました。最初に電話を取ったのは秘書の女性で、英語での内容は分かっていなかったと思います。それでも、私に電話を繋いだことから、買収交渉がスタートしました。いうまでもなく秘書が繋がなければ終わりで、もし私に英語の心得がなければ、交渉は始まらなかったでしょう。それが、中小企業ですからね(笑)。不思議なものです。
 私は、電話を受けた時に「これは、一生に1度あるかないかのチャンスだ」と思いました。とはいえ、当社は資本金が20億円弱の規模の企業であり、未曾有の金融危機の最中にあって、いかに100億円近い買収額を手当するかに始まりました。もちろん社内からは反対の声も上がりました。しかしながら、専門チームによるデューディリジェンスが進む中で、ガルピッタンの技術や品質に対する考え方や「透明性と公平性」を重んじる企業精神、引いてはスウェーデンという国柄への共感が生まれてきました。その意味で、最終的に買収の決断を固め、それを推し進めた原動力は、こうした共感をベースにした人としての信頼関係だと思っています。