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インタビュー

経済の立て直し以外に再生の道なし

北尾隆昭氏

山崎産業株式会社/代表取締役社長
 
プロフィール◉きたおたかあき
1942年、中国・上海生まれ。
1965年、東京外国語大学ヒンディー(インド)科卒業。
同年、安宅産業株式会社入社。
1969年、山崎産業株式会社設立。現在に至る。
 
[事業ミッション]
Smart, yet human as a global player
(頭は冷たく、心は温かく、世界どこにでも)
厳しさと優しさの偏らないバランスを目指すこと。

----- あの「3・11」直後の電話で、北尾さんが言われた「これまでの企業経営や経済のあり方といったものを、根本から問い直さなければなりません」との旨の言葉が耳朶から離れません。本誌では、震災前の2011年3月号で福沢諭吉の名著「学問のすすめ」(檜谷昭彦訳、三笠書房)を題材に特集をまとめました。「パッケージングの未来図」として、未来の"企業経営や経済のあり方"を思考する試みです。
 福沢氏は、その「学問のすすめ」の中で、「世の人みなが、自分のことのみに満足し、小さな安楽にとどまっているなら、こんにちの世界は、天地のはじめの時代と異なることがないだろう」との逆説的な意味の言葉を紹介しています。そして「どんな人間でも、多少なりとも身に長所があれば、それを世の中に役立てたいと思うのは、人情であろう」と述べられています。まさしく"法人"と位置付けられるごとく、企業とはいえ"人情"なくてはならないと思います。
 
北尾) その通りだと思います。むしろ、そのことをあらゆる活動のベースとして、大切にしてきたのが日本人であると思っています。誤解を恐れずに言えば、日本人が大切にしてきたその心を、震災が再び思い出させてくれたものと思います。海外からの日本人への、なかんずく東北の人たちの震災対応への称賛の声の多くが、その1点に注がれているといっても過言ではありません。
 残念ながら、戦後の日本は経済主体となり、表層的な繁栄の一方で平和ボケに堕してきた感があります。そうした日本の活動基盤の脆弱ぶりが、容赦なく露呈するかたちともなりました。理念は大切ですが、防衛とか、リスク管理といったことは待ったなしの領域です。一元管理や指揮権の確立といった重要性を疎かにしてきた隙を突かれた格好です。
 まさしく国家存亡の危機に際して、必死に献身してくれたのは自衛隊や消防隊のような、普段から厳しく訓練され、命令系統の確立した組織だけでした。ここから学ぶことは多い。とはいえ私は、経済を立て直すこと以外にやはり再生の道はないと思っています。震災後の対応を迅速に図りながら、価値観の転換を踏まえて成長する新たな方法を創り上げることが求められます。そこに、ご指摘にもあった日本人らしい"人情"を上手に取り込むことが重要だと思います。
 
----- 或る雑誌に、今、時代が大きな変革期を迎えていることについて、「いずれにしても大事なことは、『何を根本とすべきか』です。----中略----人間です。生命です」と書かれた言葉が強く印象に残りました。本来、当然のこととも言えますが経営にしろ、経済にしろ、ようやく人間としての主体性を取り戻しつつあるということでしょう。またそうしなければ未来はないということです。
 
北尾) この震災で多くの方の命が失われたことは大変に痛ましく、誠に残念なことではありますが、浅深の差はあれ、誰もが「死ぬということ」を意識したことの意味は大きいと思います。すでに意識変革は始まっています。たとえば一人ひとり、何かを受給することばかり期待するのではなく、人のために何かを拠出する心構えが現われ始めています。
 自己責任のもとに自立し、困っている人たちへの配慮が必要です。私は、一個人として、また企業人として被災者への支援を一生継続する決意をしています。海外からも称賛される日本人の良さを、今こそ企業経営や経済活動にフルに生かしたい。いうまでもなく試練はまだ継続するでしょうが、かつてない困難な時をスタートラインとするからこそ、これまでとはひと味もふた味も違う成長を期待したい。
 それを示唆する事例として、例えば津波による耕作地の塩害を様々な工夫で取り除く試みが始まっています。注目されるのは、こうした試みがけっして1つの方法に依らず、かつ自然の持つ治癒力といったものを生かそうとするものであるということです。これらの取り組みは、原発問題から大きくクローズアップしている今後の"エネルギー供給"といったことを考える上でも、非常に示唆的であると思います。
 
----- 実は「学問のすすめ」には、こんな記述があります。それは「一粒の種を播けば二、三百倍実が穫れ、深山の樹木は自然に成長し、風は風車を動かし、海は物資の輸送に便利だ。----中略----人間は、この自然界の恩恵を受け、その働きにすこし手を加えることで、自分の利益に役立てている」というものです。
 
北尾) これは、自然と共生していくことは少しも難しいことではなく、自慢するほどのことではないということです。やはり自然から謙虚に学ぶことであり、むしろご指摘の「困っている人たちへの配慮」こそが、人間として努力すべき難事ということでしょう。
 人の一生を考えれば分かることで、何事も永遠に成長が続くということはなく、どこかで締めくくりを迎えることとなります。この震災はまさしく、このターニングポイントとなるものだと思います。こうした真実をまず踏まえてこそ、様々な問題にあたってその本質を捉えることができるのではないでしょうか。
 いまだ余震が続き、原発の終息見通しも不透明となれば、なお暗い思いに落ち込みがちになりますが、短絡的なネガティブなシナリオ通りにはならないこともまた真実です。こうした状況下では、冷静な判断が必要とされることは当然ですが、それ以上に人間の持つ意思に基づく良い意味の楽観主義が必要であると思います。人間性の深いところに備わる品格や、企業の実質などといったものは、不思議にもこのようなときに決まります。
 
----- フランスの哲学者であるアラン・コーナー氏の「悲観主義は気分のものであり、楽観主義は意思のものである。およそ成行にまかせる人間は気分がめいりがちなものだ」(「幸福論」串田孫一・中村雄二郎訳、白水社)との言葉を思い出します。本日はありがとうございました。