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インタビュー

「母性」―創造する包装の哲学

今月はインタビューをお休みし、特別編として「WORLD VIEW」を掲載いたします。

 お会いする場所によって、知己の仲にも新しい発見があるものだ。「仏種(ぶっしゅ)は縁に従(よ)って起る」というが、「仏種」とは誰人にも潜在する善性であり、人としての成長の可能性でもあろう。もちろん志向性が前提となるが、場所がその機縁ともなるに違いない。
 今春に訪れた中国・上海の地で再びお会いした知己の方が、お話の中で「善も悪も"包み込む"ことに、『包装』の大事な意義がある」といった旨のことを言われた。「悪も」というと引っ掛る人もいるだろうが、けして「覆い隠す」といった意味ではない。
 「包む」ことは、善も悪もない本来の性に立ち返り、「善性」を信じて育むということではなかろうか。つい「母胎」をイメージしながら、その話を聞いていた。「善性を信じて育む」というのは、まさしく「母性」であろう。ゆえに本誌は、包装界に女性のリーダーシップを望むのである。
 そこで、今号では住井すゑさんと若月俊一さんの対談「いのちを耕す」(労働旬報社)から「母性」についての話を紹介したい。「いつの話しか?」「今でしょ!」と言いたいくらい、全く時代の隔たりを感じさせない内容である。
   ◇   ◇
若月) 生きるということは大変なことですけれど、それだけに戦いですからね。前を向いていないと...。
住井) 男の方のほうが生きているということに、科学的な意識を持っておられる?
若月) さあ。しかし、生物学的にはオスのほうが早く死ぬらしい。
住井) 平均してそうですか。
若月) 最もひどいのはカマキリで、セックスが終わるとメスがオスを食べてしまうんです。危ない(笑)。これは理屈ですが、子孫を増やすために子どもを生んだり育てたりするのはやはり女性のほうですから、それで長生きなんだろうというんですがね。
住井) カマキリ全体の命からみたら、ある段階までいくとオスはいらないんですね。命ってそういうものですね。
若月) そうですね。ただ先生、人間でもげんざい未開の国や開発途上国では、女の人のほうが平均寿命が短いんですよ。じつは明治の時代は日本でもそうでした。なぜかというと女性は妊娠やお産で早く死ぬわけです。先生もよくご存知だとおもいますが、昔は産褥熱なんていうのがありました。今の人は産褥熱なんて知らないでしょう。それから、お産のあとは弛緩性の子宮の出血などで、よく死んだものです。
住井) 昔のお産を考えると、よくあれで女が命をつないだと思いますよ。普通なら片っ端から死ぬはずですよ。産後3日目からもう起きて仕事をしていたんですから。
若月) それが、だんだん母子保険が進んでいきますと、今度は女性のほうが俄然長生きになった。
住井) なるほど。
若月) おもしろいものですね。日本で平均寿命を計算できたのは1887年(明治20年)です。そのときに初めて長生きする人のための保険をやるようになりました。今の生命保険です。それをやるようになってこの計算するようなったわけです。その当時は、男も女も平均寿命が37、8歳ではなかったでしょうか。だからまだ人生50年ではなかったんです。
住井) 30歳代で一生を終わったんですね。
若月) 大正の終わりになってやっと42、3歳でした。明治から大正、昭和となって、だんだん伸びていくだけでなく、男女の差もなくなるどころか、戦後になったら俄然女性が...(笑)。これは日本だけではありません。世界中そうです。
住井) 女が長命だということは、何だか常識に当てはまっているような気がしてわかりますね。
若月) 先生はいかにもそういう感じ。そんなことをいっては失礼ですが、初めてお会いしてから、私は住井先生に女性というより「母性」を感じるんです。お母さんという感じですね。いまの話も母性の問題が一緒になると思います。やっぱりそういうものはある。
住井) そうですね。女性というと男に対する女性、母性というと...。
若月) 一番もとですから。
住井) 生命を基本にしてね。
若月) 住井先生は、どちらかというと戦前はほとんどご主人の犬田卯先生を支えてこられた。そのときはもっぱらお子さんを育てるとか、犬田先生を支えることを頭に置いてずっと暮らされた...。
住井) そうですね、亭主を支えるというより、彼の考えそのものを世間の常識にしたい、という気がありましたね。
若月) もちろん、そこには愛があると思うんですけれど、私はそこに母性を感ずるんです。お母さんだ。
住井) 彼の考えていた農地解放は特殊なことではけしてなくて、これが日本人の常識なんです。常識であるべきなんです。
若月) いきなりこんな話になってしまいましたが、やっぱり先生の中に母性を感ずる。すべてを創造する母です...。女性を感じないわけではない、感じますけれど(笑)。いま世の中は母性を忘れ過ぎています。女性論はずいぶんたくさんあります。「女性解放」の問題とか...。だけど母性の話がまだあまり出ないんです。先生は私にいわせると天照大神みたいな感じがするんです。
母性というのは宇宙の法則なんです。
若月) そうです。一番もとですからね。今日の農業の問題、農村の問題、やはりこの世で一番大事なことです。これが母性とはつながるんですね。単なる農業、農村ではないんです。「お母さん」というやつです。
住井) 農業というのは母なる業です。
こんにち、みんな難しいことを勉強しすぎてしまって、母がどこかに行ってしまった。そういう点で、先生はそれをちゃんと持ってますよ。
住井) 母の問題に科学も何もいらない。そんなのを超越しているわけです。
若月) このことは先生が特に童話作家ということにも関係していると私は思います。やはり先生はお母さんですよ。
住井) 童話というのは最高の文学ですね。童話として価値のないものは文学ではないですね。私はそう思います。文学の中の文学が童話です。
若月) そうですか。そんな感じがしますね。一番大事なことがその中にある。
住井) 童話というのはお話ではなくて哲学なんです。だから、日本にはろくな童話作家がいない。哲学が足りないと私は思います。私は長い間、数え切れないぐらい童話を書いてきましたけれど、一つひとつに必ず哲学があるはずだという自信を持ってきました。だから、童話を書いたときが一番気持ちがいいんです。仕事をしたということで。
若月) なるほど。先生、これは大事なことですね。案外みんなはこれを忘れてしまっている。童話というとすぐメルヘン的なものだけを考えやすいけど、先生は哲学といって、この世のリアルなものを追求されている。この世をごまかしてない...。いま犬田さん(犬田卯・農民文学者、1891~1957年)との話が出たけれど、先生はお子さんに対してだけでなく、犬田先生に対してもそういう母性愛があったのではないか。だから、犬田さんが農地解放をうたった評論を書いて博文館を退社さえたわけだけど、先生はきっと犬田さんのこころを好きになってしまったんじゃないですか。そういうものがきっとあったんじゃないですか。
住井) そうですね。
若月) 人間はばかと思われたら本当は最高ですからね。今はみんなが小りこう過ぎてしまってね(笑)。そのときに本当に大きな母性が出てくるんです。しかし、先生は童話作家だから、きっともともと母性が豊かにある人なんだ。
住井) 童話というのは母性なんですね。あらゆるものを包み込むその大きさがなければ童話は書けないですね。
若月) そうでしょう。けちな理屈ではね。
住井) そうそう。だからテーマとしては童話が一番大きいですね。