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インタビュー

女性・母性原理のなかで生きる“個”としての包装とは

今月はインタビューをお休みし、特別編として「WORLD VIEW」を掲載いたします。

 「最近、欧米に行くと、仏教に対する関心が急激に高まってきているのを感じる。(中略)その態度は何か異文化のことについて知ろうなどというのではなく、自らの生き方を考える上において参考や指針にしたいという、誠実さが感じられる」と著名な臨床心理学者であり、心理療法家でもある河合隼雄氏は述べている。
 河合氏は、もちろん仏教の専門家ではなく、一心理療法家として仕事を通じて「知らず知らずのうちに、仏教にはまっていった」という。今回は、そんな河合氏が「もっと仏教について知るべきであるし、知りたいと思う」といった素直な思いからまとまった、哲学者の中沢新一氏との対談「仏教が好き!」(朝日新聞社)の一部を紹介したい。
 同書のはじめには、この対談について「いわゆる対談の本ではない。私が生徒として、教師の中沢新一さんに教わっているのを記録したものである」との河合氏のことわりが記されている。もちろん河合氏は著名な心理療法家であり、いわゆる(われわれのような)素人でもない。
 その意味では、本誌以上の禅問答ともいえなくはないが、ただ、われわれも河合氏の抱く素直な思いでこの対談に触れてみれば学ぶこと、感じることは実に多いに違いない。いうまでもないが「学ぶ」と「感じる」とは理解以上の何かである。本の冒頭に中沢氏は興味深いことを言っている。
 それは「僕も何か一つの宗教にとことん沈潜してみなければ、と思うようになりました。(中略)沈潜することによって、諸宗教の先にあるもの、メタ宗教にたどり着いていくために、最短のルートとして仏教から入っていったということなんですね」というものである。
 
 * * * 
 
 中沢)仏教の本質とは、極端なパラドックスだと思います。ですけれども、人間が「自然教」から飛躍しようとして生み出した解決法としては、一番高度だったと僕は考えています。一神教の解決法では、女性を抑圧してしまいますからね。
 仏教はそれよりも人間の自然にフィットしています。一神教は女性を抑圧した上で、商品社会という女性イメージ的な世界を発達させました。その抑圧形態が、いまグローバル資本主義として、アジアの全域を支配しようとしています。
 「アジアよ、覚醒せよ」ですね。それには、仏教とは何かを考えてみるのが、一番の早道だと思います。つまり、やっぱり問題は「婦人問題」だということです。
 河合)そのときに覚醒した仏教と資本主義との関係はどうなるんですかね。
 中沢)これはいままで誰も考えたことのない問題なんです。
 河合)そうでしょう。だからその辺をちゃんと考えていかないと。まさにグローバリゼーションですから。
 中沢)そうなんですね。これを考えていくことだけがたぶん21世紀の...。
 河合)われわれの課題でしょうね。
 中沢)はい。いまのところはグローバリズムの拡大や増殖原理を放置するというやり方に対して、ほとんど手も足も出ない状態です。ひとりイスラム教の原理主義の人たちだけが、それに異を唱えていますが、彼らの考えていることが21世紀の解決法になるとは思えない。
そういうものとは、オールタナティブに違う解決法がある、ということを、僕たちが示してみせなけりゃいけない。
 河合)そう。考えなきゃいかん。しかしね、そういう認識もまだ日本ではないぐらいですね。
 中沢)ないと思うんですね。
 河合)みなが何かを言うてるパターンは、遅まきながら西洋パターンの真似してちょこちょこ言っておる人が多いわけです。
 中沢)仏教はすでに紀元前500年頃に、この問題についてのオールタナティブな解決法をつくっていたと思うんですけど、21世紀はこれを資本主義の増殖問題の解決法として、もう1回ブッダが取り組んだ問題に取り組まなきゃいけないんです。
 河合)それで僕流に言うと、そこに個人主義ということが入ってくるんです。
 中沢)そうですね。
 河合)個人主義を仏教のなかにどう位置づけるかという課題も生じてきます。
 中沢)集団原理に対する個人主義の問題ね。
 河合)ええ、そうそう。
 中沢)神道をベースにした「自然教」の僕らの世界のなかへも、資本主義は最も重要な要素として流れ込んでいる。この資本主義が、一神教と増殖原理が結合したものだということを、もっとはっきり認識する必要があると思います。そうしないと、グローバリゼーションに対抗するのに東洋の多神教を持ってくればいい、とかいう発想になってしまって、これではだめなんです。
 河合)うん、僕もそう思う。
 中沢)これに対抗するには一神教的思考法を、僕たちが積極的に取り入れる必要がある。しかも、仏教がやったみたいなやり方で、女性性を破壊しない一神教と言いますか、そういうやり方で対処していく必要がある。
 河合)単純な多神教というのは現代の欧米の文明を見てもわかるように、一神教の強さに圧倒されるだけです。
 中沢)そうですね。そんなに文化が美しくても、これはやられちゃいます。
 河合)やられるだけなんですよ。
 中沢)アメリカ先住民のたどった道は美しく悲しいけれども、われわれはそれをたどっちゃいけないでしょう。
 河合)僕は絶対それはやりたくないですよ。
 中沢)とにかく一神教と増殖原理を組み込んだものを徹底的に見ていかなきゃいけない。同時に仏教がこの問題についてまったくオールタナティブな解決法を、つくり出そうとしたことを、見ていかなくちゃ。
 「婦人問題」について仏教がもたらしたオールタナティブな解決法と同じ原理を持ったものを、グローバル資本主義へ持ち込んでみるというやり方ですね。だから、21世紀のキーワードは「仏教」だって言ったんでしょ、ということですね。
 河合)僕の場合はとくに個人主義との関係とか、自由主義との関係とかで見ている場合が多い。大体似たような線に来ると思いますが、そういう研究は絶対要りますね。
 中沢)ええ。西洋の個人主義というのは、先生はどういう根源から。
 河合)僕の考えでは、個人主義というのはキリスト教から生まれてきたものです。神と人とを明確に区別する、「区別」の重視。それに唯一の自我を支える唯一の神とう構図です。
この個人主義はやはり男性原理が圧倒的に優位でしょう。女性原理はどうしていいかわからない。そうすると、女性の人たちもそれに乗るとすると、フェミニストじゃないですけど、「私たちも男と同じよ」ということしか言えない。
 ところが女性原理、母性原理というのは、僕はとっても面白いと思うし、大事でしょう。だからそれを持ちながらなおかつ個人であり得るというのはどうなっていくか。これは言いかえると、個人主義と仏教の折り合いをつけるということになりますが。
 中沢)その1つのモデルは猟師なんじゃないかしら。猟師は完全な個人主義ですね。
 河合)大体、狩猟には個人主義というのがあり得る。
 中沢)たしかに集団で行動はしますけれども、最後は個人主義です。しかも徹底した個人。
 河合)個人じゃないとだめですね。
 中沢)徹底した個人の意識を持って集団に参画するということがないとできない。
 河合)そうそう。
 中沢)動物と渡りあうときも、まったくの個人として向かい合っています。これは個人主義の極致です。しかも個人になるためには戒律を重視するわけでしょう。そして、そこで触れているものは何かと言ったら母性や女性なんです。狩猟文化は、本当に偉大なんですよ。
 河合)そこに大切なヒントがあるようですね。

中沢新一(なかざわしんいち)
1950年5月に山梨県山梨市に生まれる。日本の哲学者、思想家、人類学者、宗教学者。自身修行を体験したチベット仏教の影響を受け、独自の思想を展開している人類学者、思想家でもある。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。現在、多摩美術大学芸術人類学研究所所長。著書に「チベットのモーツァルト」「森のバロック」「哲学の東北」など多数ある。