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インタビュー

誰かと誰かの接点となりうる魂のパッケージ

今月はインタビューをお休みし、特別編として「WORLD VIEW」を掲載いたします。

 花粉症とのつき合いも20年近くになろうか。いうまでもなく鼻腔内に入って来るスギなどの花粉により、免疫の過剰反応で引き起こされるアレルギー性鼻炎などである。5月に入りその症状はだいぶ収まってきたが、世界的な関心事のCOVID-19(急性呼吸器症候群)はまだまだ収まりそうもない。
 「大きく構えて小さく収める」とは危機対応の鉄則であるようだが、身体も未知の病原体の侵入に対しては、同様の対応を取るのであろう。さすがに花粉については「病原体ではない」と認知しつつあるのだろう。量にも依るが、年々に症状は緩和されつつあるように感じられる。
 その経験に鑑みれば、COVID-19では未知の病原体であるとともに、風邪のウイルスと同種でもあることから、余計に大きな構えでの免疫反応になっているのだろう。当然、花粉とは違いウイルスそのものによる細胞侵食もあるが、急性な重症化には免疫の過剰反応も疑われているようである。
 われわれの身体の免疫対応もそうであれば、社会の危機対応でも同じくロックダウンや緊急事態宣言により、大幅な行動制限や自粛が余儀なくされているわけである。さらに日々に接する情報も未知のCOVID-19関連に占拠されている感は否めない。
 感染者数は世界186ヵ国・地域で350万人に達し、死者数も24万人(2020年5月5日現在)を超えてなお拡大していることを考えれば、危機事態ではある。鉄則より大きく構える初期対応は必要だが、(所詮はウイルスの生長活動で)過剰な対応がつづけば社会も急性に重症化しないとはいい切れまい。
 戦争ではないのだから、危機事態のときにこそ(ウイルスの生長活動に学び)シンプルに生きる日常の生活感覚を取り戻すことである。読書もその1つで、今回は作家の小川洋子氏と臨床心理学者の河合隼雄氏との対談「生きるとは、自分の物語をつくること」(新潮文庫)から、そうしたシンプルに生きるヒントとなるものを紹介したい。
 
* * *
 
河合) 距離のとり方って、人によって違うんです。例えば自閉的な子どもさんだったら、時々あるんですが、話していると急に「2+3=5」とかいうてくるんです。そういうときに「うん、そうやね」というてしまったら、ものすごい機嫌悪くなるんです。
 
小川) 機嫌悪く。
 
河合) ええ。つまり、それはこっちが真剣に聞いてないということでしょう。「そうや」というのは、何でもええからそういうてるわけですからね。だから、パッと「5や」ていうんです。「答えは5よ」て。そこでパッと塀ができて、それでその子は「あ、僕は僕で、こいつはこいつ」と境界ができるんですよ。
 
小川) その方が安心なんですね、その子にとっては。
 
河合) そうなんです。それをみんなよく間違うんです。そこでパチンといわなあかんのです。ところがね、それが今度は親やったら「何いうてんの、あんた、5やないの」とかいうてワーッとかぶさってくるようになるから、それはまた本人にしたら嫌なんですね。
 
小川) むずかしいですね。
 
河合) 完全数というのも不思議ですね。約数の和がその数になるという。何でや、と思うね。
 
小川) あの不思議を知って感動しない人はいないと思います。神様の手帳に書いてあるという感じ。
 
河合) 人間の生まれる前からこういうオーダー、秩序があるというのが、おもしろい。線分の話もいいですね。
 
小川) 「真実の直線はどこにあるか。そこはここにしかない」といって、博士が自分の胸に手を当てるところ。
 
河合) 無限の直線は線分と1:1で対応するんですね。部分は全体と等しくなる、これが無限の定義です。だからこの線分の話が、僕は好きで、この話から、人間の心と体のことをいうんです。線を引いて、ここからここまでが人間とする。心は1から2で、体は2から3、その間が無限にあるし分けることもできない。
 
小川) ああ、2.000000...。
 
河合) そうそう。分けられないものを分けてしまうと、何か大事なものを飛ばしてしまうことになる。その一番大事なものが魂だ、というのが僕の魂の定義なんです。
 
小川) 数学を使うと非常に良くわかりますね。
 
河合) お医者さんに、魂とは何ですか、といわれて、僕はよくこれをいいますよ。分けられないものを明確に分けた途端に消えるものを魂というと。善と悪とかでもそうです。だから、魂の観点からものをみるというのは、そういう区別を全部、一遍、ご破算にしてみることなんです。障害のある人とない人、男と女、そういう区別を全部消してみる。
 
小川) 魂というのは、文学で説明しようとしても壮大な取り組みになりますけれど、数字を使えば美しく説明できるのがおもしろいですね。
 
河合) だけど心理学の世界では、魂という言葉を出したらアウトです。
 
小川) そうなんですか。
 
河合) 非科学的だと批判されますから、僕がスイスから日本へ帰って来たのは1965年ですが、その後15年ぐらいは学会では魂という言葉は1回もいわなかったんです。いうたら誰も僕のいうことを聞かなくなるだろうと分かりました。
 だんだん、そろそろいうてもいいかな、というように周りも変わってきて、1980年ぐらいに「今日は一遍、変な話をします」といって魂の話をしたのを覚えていますよ。
 
小川) この間、遺伝子学の先生にお会いしたときにうかがったのですが、サイエンスにも昼間の科学、デイ・サイエンスと感性の世界のナイト・サイエンスがあると。
 
河合) それはおもしろいね。
 
小川) すごいのは、ミッドナイト・サイエンスで、電気を消して、ちょっと一杯お酒でも飲んで理性が緩んだときに心にぽっかり浮かんだりすることが、実は大事だったりする場合があると、でもそれは学会や講義ではあまりいえない、とおっしゃていました。
 
河合) だから何時どのようにいうか考えていわないといけないのやけど、僕は文学が一番それが書けると思ってやっているんです。だから僕がはじめに心理学の人たちに魂のことを話すときに使ったのが児童文学です。児童文学が一番すっと魂のことを書けますから。ルート君が博士にものいうときみたいに。
 
小川) よけいな常識とか理屈とかなしに。
 
河合) 博士もそうでしょうよね。しかも記憶というのは完全な常識だけど、それも切れてゆくんですから。
 
小川) 全部とっぱらって、本当に魂をむき出しにして生きざるをえない。
 
河合) そう、すごい人を考えられたと感心しましたね。
 
小川) それで、その魂と魂を触れ合わせるような人間関係をつくろうというとき、大事なのは、お互い限りある人生なんだ、必ず死ぬもの同士なんだという一点を共有し合っていることだと先生もお書きになっていますね。
 
河合) やさしさの根本は死ぬ自覚だと書いています。やっぱりお互い死んでゆくということが分かっていたら、大分違います。まあ大体忘れているんですよ。みんなね。
 
小川) 自分だけは100年も200年も生きるような気持ちでいる。
 
河合) そう。それとすごく親しい人が死ぬことは想像できない。死という可能性を消してるんです。心のなかでね。
 
小川) あなたも死ぬ、私も死ぬ、ということを日々共有していられれば、お互いが尊重し合える。相手のマイナス面も含めて受け入れられる。

河合隼雄(かわいはやお)
1928年、兵庫県生れ。京大理学部卒。京大教授。ユング派心理学の第一人者であり、臨床心理学者。文化功労者。文化庁長官を務める。著書は「昔話と日本人の心」(大佛次郎賞)「明恵 夢を生きる」(新潮学芸賞)「こころの処方箋」「猫だましい」「大人の友情」「泣き虫ハァちゃん」など多数。
 
小川洋子(おがわようこ)
1962年、岡山県生れ。早稲田大学第一文学部卒。1988年に「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞。1991年に「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。2004年に「博士の愛した数式」で読売文学賞、本屋大賞を受賞。「ブラフマンの埋葬」で泉鏡花文学賞、2006年には「ミーナの行進」で谷崎潤一郎賞、2013年には「ことり」で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。「薬指の標本」「琥珀のまたたき」など多数の小説、エッセイがある。